陛下なんて言い出すかも知れない。正気の沙汰《さた》か、気が狂ったのか、あの変な老耄《おいぼれ》めが。」
「なぜかって、わかってるじゃないか。」とテナルディエは答え返した。「なあに、それが奴《やつ》にはおもしろいんだ! お前にはあの児が働くのがおもしろいように、奴にはあの児が遊ぶのがおもしろいのさ。それはあの男の権利だ。客となりゃあ、金さえ出せば何でも勝手にできるんだからな。あの爺《じい》さんが慈善家だったとしても、それがお前にどうしたというわけはないじゃねえか。もしばか者だったとしたところで、お前に関係したことじゃねえ。何もお前が口を出すことはねえや。向こうには金があるんだからな。」
 亭主としての言葉、宿屋の主人としての理論、それはいずれも抗弁を許さないところのものであった。
 男はテーブルの上に肱《ひじ》をついて、また何か考え込んだような様子をしていた。商人や馬方などすべての他の旅客らは、少し遠くに身をさけて、もう歌も歌わなかった。彼らは一種の畏敬《いけい》の念をもって男を遠くからながめていた。あんな見すぼらしい着物をつけながら、平気で大きい貨幣をポケットから引き出し、木靴《きぐつ
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