った。
 コゼットは急に手を引っ込めた、あたかも奥様[#「奥様」に傍点]の手が彼女の手を焼いたかのように。そして床《ゆか》の上を見つめた。なおその時彼女がひどく舌をつき出したことをも、われわれはつけ加えざるを得ない。それから彼女は突然向き直って、ひしと人形をつかんだ。
「私はこれにカトリーヌという名をつけよう。」と彼女は言った。
 コゼットのぼろの着物が、人形のリボンと薔薇色《ばらいろ》のぱっとしたモスリンとに並んで押しつけられてるのはすこぶる異様な様であった。
「お上さん、」と彼女はまた言った、「これを椅子《いす》の上に置いてもようございますか。」
「ああいいよ。」と上さんは答えた。
 こんどはエポニーヌとアゼルマとがコゼットをうらやましそうに見ていた。
 コゼットはカトリーヌを椅子の上に置いた。それから自分はその前の地面《じべた》にすわって、じっと見入っている様子で黙ったまま身動きもしなかった。
「さあお遊び、コゼット。」と男は言った。
「ええ遊んでるのよ。」と娘は答えた。
 天からコゼットの所へつかわされた者のような、その見ず知らずの不思議な男を、テナルディエの上さんはそのとき世
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