数分過ぎ去った。男は言った。
「テナルディエの上さんのうちには女中はいないのかね。」
「いません。」
「お前さん一人なのか。」
「ええ。」
 それからまた言葉が途切れた。コゼットは口を開いた。
「でも娘は二人あります。」
「何という娘だい。」
「ポニーヌとゼルマっていうの。」
 テナルディエの上さんが好きな小説的な二人の名前を、彼女はそんなふうにつづめて呼んでいたのである。
「ポニーヌとゼルマというのは、どういう人たちだい。」
「テナルディエのお上さんのお嬢さんなの。まあその娘よ。」
「そして何をしてる、その人たちは。」
「そりゃあいろいろなものを持ってるの、」と子供は言った、「美しい人形やら、金《きん》のついたものやら、いろいろなものがあるの。遊んでおもしろがってるの。」
「一日中?」
「ええ」
「そしてお前さんは?」
「私は、働いてるの。」
「一日中?」
 子供は大きな目をあげた。夜で見えはしなかったが、それには涙が宿っていた。子供は静かに答えた。
「そうよ。」
 ちょっと黙った後に彼女は言い続けた。
「時々は、用がすんでから、いいって言われる時には、私も遊ぶことがあるの。」
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