た。
 御者は馬車の中の乗客たちの方へふり向いて言った。
「今の男はこの辺の者じゃありませんよ。私は見たこともないから。一スーの金もなさそうな様子だったが、金のことなんかは考えてもいないと見える。ランニーまでの金を払っておきながらシェルまできておりてしまった。もうすっかり夜で、家はみなしまってるのに、あの男は宿屋にはいりもせず、また姿も見えません。地の中へでももぐり込んだんでしょう。」
 が男は地の中へもぐり込んだのではなかった。彼はやみの中を急いでシェルの大通りを大またに歩いてゆき、それから教会堂の所まで行く前に左へ曲がって、モンフェルメイュに通ずる村道を進んで行った。あたかもその辺の地理には明るく、また前にもきたことがあるもののようだった。
 彼は足早にその村道を歩いて行った。ガンニーからランニーへ行く古い並木道との交差点まで達した時、数人の通行人がやって来る足音が聞こえた。彼はすばやく溝《みぞ》の中に身を隠して、その人たちが遠ざかるのを待った。がもとよりそんな用心はほとんど無用なことだった。前に述べておいたとおり、まっくらな十二月の夜だったのである。空にはかろうじて二、三の星影が
前へ 次へ
全571ページ中205ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング