御者台の所ですが。」と御者は言った。
「それを願いましょう。」
「お乗りなさい。」
けれども出かける前に、御者はその客の賤《いや》しいみなりと小さな荷物とをじろりと見やって、金を先に払わした。
「ランニーまでですか。」と御者は尋ねた。
「そうです。」と男は答えた。
彼はランニーまでの馬車賃を払った。
一同は出発した。市門を出た時、御者は話をしようとしたが、男は一、二言の短い答えを返すだけであった。御者は仕方なしに、口笛吹いたり馬をしかり飛ばしたりした。
御者は外套《がいとう》に身を包んだ。非常に寒かった。けれども男はそれを気にもしていないようだった。そのようにしてグールネーを過ぎ、ヌイイー・スュール・マルヌを過ぎた。
晩の六時頃にはシェルに着いた。御者は馬を休ませるために、国立修道院の古い建物のうちにあった駅宿の前で馬車を止めた。
「私はここでおりる。」と男は言った。
彼は包みと杖とを取って、馬車から飛びおりた。
間もなく彼の姿は見えなくなった。
彼は宿屋にはいったのではなかった。
数分後に馬車がまたランニーに向かって進み出した時、彼の姿はシェルの大通りにも見えなかっ
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