ましいありさまだった。
暗黒は人の心を惑わすものである。人には光が必要である。だれでも昼に相反するものの中に身を投ずる者は、心をしめつけられる思いがする。目に暗黒を見る時、精神は惑わしを見る。日食のうち、夜のうち、文目《あやめ》もわかたぬ暗がりのうちには、最も強い人々にとってさえ不安がある。夜ただ一人森の中を歩いて戦慄《せんりつ》しない者はない。影と木立ち、二つの恐ろしい密層。現実の幻がそのおぼろなる深みのうちに現われてくる。想像にも及ばないものが、スペクトルのごとき明るさで数歩前の所に浮き出してくる。眠れる花の悪夢のごときある漠然《ばくぜん》たる捕捉すべからざるものが、空間のうちにあるいは自分の頭のうちに浮かんでくるのが見える。地平線には恐ろしい姿のものがいる。まっ黒な大きい空洞《くうどう》の気が胸にはいってくる。自分の後ろが恐ろしくなってふり返りたくなる。夜の空虚、荒々しい姿になった事物、進むに従って消散する黙々たる物の横顔、髪をふり乱したようなまっくらなもの、いら立った叢《くさむら》、青白い水たまり、滅亡と悲愁との反映、沈黙の広大な墓場、実際にいるかも知れない見も知らぬ変化《へ
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