た。彼女はその差口《さしぐち》を回した。娘は頭をもたげて彼女の様子をじっと見守っていた。少しの水がたらたらと差し口から流れて、コップに半分ばかりたまった。「おや、」と彼女は言った、「もう水がない!」それから彼女はちょっと口をつぐんだ。娘は息もつかなかった。
「いいさ、」と上さんは半分ばかりになったコップを見ながら言った、「これで間に合うだろう。」
でコゼットはまた仕事にかかった。けれども十五、六分ばかりの間は、心臓が大きな毬《まり》のようになって胸の中に踊ってるような気がした。
そういうふうにして過ぎ去っていく時間を数えながら、彼女は早く明日の朝になればいいがと思っていた。
酒を飲んでいた一人の男が、時々表をながめては大きな声を出した。「釜の中みてえにまっくらだ!」あるいはまた、「今ごろ提灯《ちょうちん》なしに外を歩けるなあ猫《ねこ》ぐらいのもんだ!」それを聞いてコゼットは震えた。
突然、この宿屋に泊まってる行商人の一人がはいってきた、そして荒々しい声で言った。
「私の馬には水をくれなかったんだな。」
「やってありますとも。」とテナルディエの上さんは言った。
「いやお上さん、や
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