勅令の廃止のおり亡命したフランスのある家族の出でドイツの将軍をしていたデュプラーが倒れた。すぐそのそばには、一本の病んだ林檎《りんご》の古木が、わらと粘土の繃帯《ほうたい》で包まれて傾いている。ほとんどすべての林檎の樹は老衰のうちに倒れかかっている。銃弾や霰弾を受けていないものは一本としてない。枯木の骸骨《がいこつ》が果樹園の中には数多《あまた》ある。烏が枝の間を飛んでいる。その向こうは、すみれの咲き乱れた森である。
 ボーデュアンは戦死し、フォアは負傷し、火災、殺戮《さつりく》、惨殺、英独仏の兵士らの血は猛烈な混戦のうちに川となって流れ、井戸は死屍《しかばね》をもって満たされ、ナッソーの連隊およびブルンスウィックの連隊は全滅し、デュプラーは戦死し、ブラックマンは戦死し、イギリス近衛兵は大半殺され、フランス軍はレイユ軍団の四十個大隊中二十個大隊を大半失い、三千の兵士らはウーゴモンの破屋《あばらや》のうちだけできられ、突かれ、屠《ほふ》られ、撃たれ、焼かれてしまった。かくてすべてそれらの結果は、今日そこの百姓が旅人に向かって言う、「旦那[#「旦那」に傍点]、三フラン下さい[#「三フラン下
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