たいなコゼットが。彼女の声の響きには、家中のものが、窓ガラスも道具も人間もみな震え上がった。赤痣《あかあざ》で凸凹《でこぼこ》の大きい顔は、網杓子《あみじゃくし》に似ていた。髯《ひげ》まではえていた。まったく市場の人夫の理想的な型で、ただ女の着物を着てるだけであった。そのどなる声は素敵なものだった。胡桃《くるみ》をも一打にたたき割るといって自慢していた。小説を読んだので時とすると、その食人鬼のような姿の下から変に洒落《しゃれ》女の様子が現われて来ることがあったが、それがなかったら、女だと言ってもだれも本当にしなかったかも知れない。まず娼婦《しょうふ》が土方女に接木《つぎき》してできたというくらいのところだった。口をきいてるのを聞くと憲兵かとも思われ、酒を飲んでるところを見ると馬方《うまかた》かとも思われ、コゼットをこき使ってるところを見ると鬼婆《おにばば》とも思われるほどだった。休息してる時には、歯が一本口からのぞき出ていた。
 亭主のテナルディエの方は、背の低い、やせた、色の青い、角張った、骨張った、微弱な、見たところ病気らしいが実はすこぶる頑健《がんけん》な男であった。彼のまやかし
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