ゅうちょ》しそしてよろめいたようだった。と突然、群集は高い叫び声をあげた。囚人は海中に落ちたのである。
その墜落は危険であった。軍艦アルゼジラス号がちょうどオリオン号と相並んで停泊していた、そしてあわれな徒刑囚はその間に落ちたのだった。彼は両艦のいずれかの船底にまき込まれる恐れがあった。四人の男が急いでボートに飛び乗った。群集は彼らに声援した。心痛は人々の心のうちにまた新たになった。男は水面に浮き上がらなかった。あたかも石油|樽《だる》の中に落ち込んだがように、一波も立てずに海中に消え失せてしまった。人々は水中を探り、また潜《もぐ》ってみた。しかし無益であった。夕方まで捜索は続けられた。けれども死体さえも見つからなかった。
翌日、ツーロンの新聞は次の数行を掲げた。
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一八二三年十一月十七日――昨日、オリオン号の甲板で労役に従事していた一囚徒は、一人の水夫を救助して帰り来る時、海中に墜落して溺死《できし》した。死体は発見されなかった。察するところ、造船工廠の先端の杭《くい》の間にからまったものであろう。その男の在監番号は九四三〇号で、ジャン・ヴァルジャンとい
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