らるるであろう。恐ろしき六月十八日の様はよみがえってき、人工の記念の丘は消え、何かのその獅子《しし》の像も消散し、戦場はまざまざと現われて来る。歩兵の列は平原のうちにうねり、狂うがごとく疾駆する騎兵の列は地平を過ぎる。心乱れたその瞑想《めいそう》の旅客は見る、サーベルのひらめきを、銃剣の火花を、破烈弾の火災を、雷電の驚くべき交錯《こうさく》を。また彼は聞く、墳墓の底の瀕死の喘《あえ》ぎのごとくに、幻の戦いの漠たる叫喊《きょうかん》の響きを。あの物影は擲弾兵《てきだんへい》、あの微光は胸甲騎兵、あの骸骨《がいこつ》はナポレオン、あの骸骨はウェリントン。それらはもはや幻ではあるが、しかもなお互いに衝突し戦っている。谿谷《けいこく》は赤くいろどられ樹木は震え、雲間にまで狂暴なものがひろがり、そして暗夜のうちに、モン・サン・ジャン、ウーゴモン、フリシュモン、パプロット、プランスノアなど、すべてそれらの凶暴な高地は茫乎《ぼうこ》と現われきたって、その上には、互いに殲滅《せんめつ》し合う幽鬼の旋風が荒れ狂っている。
十七 ワーテルローは祝すべきか
世には少しもワーテルローを憎まない
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