うばあ》さんまで([#ここから割り注]訳者注 イリヤッドと千一夜物語の中の老婆[#ここで割り注終わり])をほほえませるものである。
 常に多くの優美を持ちうっとりとした微笑を人に起こさせるあの子供の言葉[#「子供の言葉」に傍点]は、おそらく他の所でよりも多くこの家の中で発せられる。この陰気な四壁の中で、五歳の女の児がある日叫んだのである。「お母様[#「お母様」に傍点]、私はもう九年と十月きりここにいないでいいと大きい方がおっしゃいましたのよ[#「私はもう九年と十月きりここにいないでいいと大きい方がおっしゃいましたのよ」に傍点]。ほんとにうれしいこと[#「ほんとにうれしいこと」に傍点]!」
 次の記憶すべき対話が行なわれたのもここである。
 声の母――なぜあなたは泣いています。
 子供(六歳、泣きながら)――私はアリクスさんにフランスの歴史を知っていると申しましたの。するとアリクスさんは私がそれを知らないとおっしゃるんですもの、知っていますのに。
 アリクス(大きい児、九歳)――いいえ、お知りになりませんわ。
 声の母――なぜです?
 アリクス――どこでも御本を開いて、中に書いてあることを尋ねてごらん遊ばせ、答えてあげますから、っておっしゃいましたの?
 ――そして?
 ――お答えなさらなかったのです。
 ――であなたは何を尋ねました。
 ――おっしゃったとおりにある所を開きました。そして目についた第一番目の問いを尋ねました。
 ――どういう問いでした?
 ――それからどうなったか[#「それからどうなったか」に傍点]、っていうのでした。
 また、ある寄宿生の持ってる多少美食家の鸚鵡《おうむ》について、次の深い観察がなされたのもここである。
「かわいいこと[#「かわいいこと」に傍点]! 大人のようにジャミパンの上皮だけを食べてるわ[#「大人のようにジャミパンの上皮だけを食べてるわ」に傍点]!」
 七歳の娘の手で忘れないためにあらかじめ書き止められた次の罪の告白が拾われたのも、この修道院の舗石《しきいし》の上においてである。

[#ここから4字下げ]
天の父よ、私は貪欲《どんよく》でありましたことを自ら咎《とが》めまする。
天の父よ、私は姦淫《かんいん》でありましたことを自ら咎めまする。
天の父よ、私は男の方へ目を上げましたことを自ら咎めまする。
[#ここで字下げ終わり]
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