の上そこは影になっていた。そしてそこに二つの門があった。あるいはそれを押しあけられるかも知れなかった。壁の上から菩提樹《ぼだいじゅ》の木と蔦《つた》とが見えてるところをみると、中は明らかに庭になってるらしかった。樹木にはまだ葉は出ていなかったが、少なくともそこに身を隠して夜が明けるまで潜んでることができるかも知れなかった。
時は過ぎ去ってゆく。早くしなければならなかった。
彼は大門にさわってみた、そしてすぐに、その戸は内外両方からしめ切ってあることを知った。
彼はなお多くの希望をいだいて、も一つの大きな門に近づいていった。それは恐ろしく老い朽ちていて、大きいのでいっそう弱そうで、板は腐っており、三つしかない鉄の箍《たが》は錆《さ》びきっていた。その錆び朽ちた戸を押し破ることはできそうに思えた。
ところがよく見ると、それは実は門ではなかった。肱金《ひじがね》も蝶番《ちょうつがい》も錠前もまんなかの合わせ目もなかった。鉄の箍は一方から他方へ続けざまにうちつけてあった。板の裂け目から彼は、いい加減にセメントで固めた素石や切り石をのぞき見ることができた。今から十年前まではなお、そこを通る者はそれらのものを見ることができたのである。その戸みたいなものはただ壁の上につけられた木の覆《おお》いにすぎないことを、彼は狼狽《ろうばい》しながらも自ら認めざるを得なかった。板を引きはがすことは何でもなかったが、その先には更に壁があるのだった。
五 ガス燈にては不可能のこと
その時調子を取った重い響きが向こうに聞こえてきた。ジャン・ヴァルジャンはその街路のすみから少しのぞき出してみた。七、八人の兵士が列をなして、ポロンソー街に現われてきたところだった。銃剣の光るのが見えた。それが彼の方へやってきつつあった。
その兵士らはジャヴェルの高い姿を先に立てて、徐々に注意して進んできた。しばしば立ち止まった。明らかに彼らは、壁のすみや戸や路地の入り口などをしらべつつやって来るのだった。
それはジャヴェルが道で出会って助力を求めた巡邏《じゅんら》の兵士らであったろう。その推測はまちがいなかった。
ジャヴェルの手下の二人が、その列のうちに加わっていた。
彼らの歩調と時々立ち止まる時間とをはかってみると、ジャン・ヴァルジャンがいる所までやって来るには十五分ばかりはかかりそう
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