れません。」
「もう癒《なお》るに間もないのです。」と老人は答えた。
彼はそれからちょっと言葉を切ったが、また言った。
「三時間もしたら死ぬでしょう。」
それからまた彼は続けて言った。
「私は少々医学の心得があります。どんなふうに最期の時間がやって来るかを知っています。昨日私は足だけが冷えていました。今日は膝《ひざ》まで冷えています。ただ今では冷えが腰まで上ってきてるのを感じます。心臓まで上って来る時は、私の終わりです。太陽は美しいではありませんか。私は種々なものに最後の一瞥《いちべつ》を与えるため、外に椅子を出さしたのです。お話し下すってかまいません。私はそれで疲れはしませんから。あなたは死んでゆく者を見守りにちょうどよくこられました。死に目を見届けてくれる人がいるのはいいことです。人には何かの奇妙な望みがあるものです。私は夜明けまで生きていたいと思っています。しかしやっと三時間くらいきり生きられないのをよく知っています。夜になるでしょう。だが実はそんなことはどうでもよろしいのです。生を終わるということは簡単なことです。そのためには別に朝を必要としません。そうです、私は星の輝いた
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