見てほほえんでいた。
 腰掛けている老人の傍《そば》には、牧者である年若い小僧が立っていた。彼は老人に一杯の牛乳を差し出していた。
 司教がじっとながめている間に、老人は声を立てて言った。「ありがとう。もう何もいらないよ。」そして彼のほほえみは太陽の方から子供の上に向けられた。
 司教は進んでいった。その足音に、腰掛けていた老人は頭をめぐらした。彼の顔には、長い生涯を経た後にもなお感じ得るだけの驚きが浮かんだ。
「私がここにきていらい、人が私の所へきたのはこれが初めてだ。」と彼は言った。「あなたはどなたです。」
 司教は答えた。
「私はビヤンヴニュ・ミリエルという者です。」
「ビヤンヴニュ・ミリエル! 私はその名前をきいたことがあります。人々がビヤンヴニュ閣下と呼んでいるのはあなたですか。」
「私です。」
 老人は半ば微笑を浮かべて言った。
「それではあなたは私の司教ですね。」
「まあいくらか……。」
「おはいり下さい。」
 民約議会員は司教に手を差し出した。しかし司教はそれを取らなかった。そしてただ言った。
「私の聞き違いだったのを見て、私は満足です。あなたは確かに御病気とは見受けら
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