婦人は、男子が自らを了解するよりもいっそうよく男子を了解するあの特殊な女の才能をもって、司教のやり方におのれを一致させることを得たのである。ディーニュの司教は、常に変わらぬ穏和率直なふうをもってして、しかも往々豪胆な崇高な大事をなしたのである。彼は自らもそれに気付かないがようであった。二人の婦人はそれを非常に心配したが、しかし彼のなすままにして置いた。時としてマグロアールは事の前にあらかじめ注意することもあったが、その最中や事後には決してしなかった。一度何かが初められると、彼女たちは決して身振りでさえも彼をわずらわすことをしなかった。ある場合など、彼はおそらく自らもはっきり意識しないほどまったく単純に行なったので、一言も言われなくても、彼女たちは漠然《ばくぜん》と彼が司教らしい行動をしているように感じた。そういう時には、彼女たちは家の中において単に二つの影にすぎなかった。彼女たちは全く受動的に司教に仕え、もし身を退けることが彼の意に従うならば、その傍《そば》から身を退くのであった。彼女たちは非常に微妙な本能によって、ある種の世話はかえって彼の心をわずらわすものであることを知っていた。そ
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