光景を痛感するほどの知力や精神の微妙な習慣を少しも持ってはいなかった。けれども、今見るその空、その丘、その平野、その樹木、それらのうちには何か深いわびしさがこもっていたので、彼はちょっと立ち止まって思いに沈んだが、突然|踵《くびす》をめぐらした。自然さえも、敵意を有するらしく思える瞬間があるものである。
彼はまた戻って来た。ディーニュの市門はもう閉ざされていた。ディーニュ市は、宗教戦争のおり長く包囲をささえた所であって、後にこわされてしまったが、一八一五年にはなおその周囲に、方形の塔がついてる古い城壁があったのである。彼はその城壁の破れ目を通ってまた町の中にはいった。
もうたぶん晩の八時くらいになっていたろう。彼は町の様子を知らないので、再びただむやみに歩き出した。
そのようにして彼は県庁の所にき、それから神学校の所まできた。大会堂の広場を通る時には、彼は会堂に対して拳《こぶし》をさしつけた。
その広場の角に印刷屋があった。エルバ島から持ちきたされ、ナポレオン自身の口授になった、皇帝の宣言及び軍隊に対する親衛の宣言が初めて印刷せられたのは、そこにおいてであった。
全く疲れはて
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