っています。」
「それでは、」と男はまた言った、「物置きのすみでもいい。藁《わら》が一束あればいい。が、そんなことは食事の後にしましょう。」
「食事を上げることはできません。」
その宣告は、抑《おさ》えられてはいるが、しかし断固たる調子でなされたので、男には重々しく響いたらしかった。彼は立ち上がった。
「ええッ! だが私は腹が空《す》ききってるんだ。私は日の出から歩き通した。十二里歩いたんだ。金は払う。何か食わしてくれ。」
「何もありません。」と主人は言った。
男は笑いだした、そして炉や竈《かまど》の方へふり向いた。
「何もない! そしてあそこのは?」
「あれは約束のものです。」
「だれに?」
「馭者の方たちに。」
「幾人いるんだい。」
「十二人。」
「二十人分くらいはあるじゃないか。」
「すっかり約束なんです、そしてすっかり前金で払ってあるんです。」
男は再び腰をおろした、そして別に声を高めるでもなく言った。
「私は宿屋にいるのだ。腹がすいている。ここを動きはしない。」
そこで主人は彼の耳元に身をかがめて、彼を慄然《ぎょっ》とさしたほどの調子で言った。「出てゆきなさい。」
前へ
次へ
全639ページ中136ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング