をやっているらしい子供に渡した。亭主が耳もとに一言ささやくと子供は市役所をさしてかけて行った。
 旅人はそれらのことには少しも気がつかなかった。
 彼はも一度尋ねた。「食事はすぐですか。」
「ただ今。」と主人は言った。
 子供は帰ってきた。紙片を持ち戻っていた。主人は返事を待っているかのように急いでそれを披《ひら》いた。彼は注意深くそれを読んでいるらしかったが、それから頭を振って、しばらくじっと考え込んだ。ついに彼は一歩旅人の方へ近よった。旅人は何か鬱々《うつうつ》と考えに沈んでいるらしかった。
「あなたは、」と主人は言った、「お泊めするわけにいきません。」
 男は半ば席から立ち上った。
「どうして! 私が金を払うまいと心配するんですか。前金で払ってほしいんですか。金は持っていると言ってるではないですか。」
「そのことではありません。」
「では、いったい何です。」
「あなたは金を持っている……。」
「そうです。」と男は言った。
「だが私の所に、」と主人は言った、「室がないのです。」
 男は落ち着いて口を開いた。「廐《うまや》でもいい。」
「いけません。」
「なぜ?」
「どこにも馬がはい
前へ 次へ
全639ページ中135ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング