オンの前に開かれしことが漠然と感じ得られた時、運命に罰せられたる人に対する軍隊および国民の悲しき歓呼の声は、決して笑うべきものではなかった。しかしその専制君主に多くの難を認むるとしても、ディーニュの司教のごとき心の人は、偉大なる一国民と偉大なる一人の人との深淵《しんえん》の縁における堅き抱擁のうちには厳粛にして痛切なるもののありしことを、おそらく否認してはいけなかったであろう。
それを外にしては、司教は何事においても常にまたその時々に、正当、真実、公平、聡明《そうめい》、謙譲、廉直であった。恵み深く、また慈恵の一種なる親切でもあった。彼は一個の牧師で、一個の賢者で、かつ一個の人であった。そしてここに言わなければならないことは、われわれが彼を非難し、ほとんどあまりに厳《きび》しく彼を批判せんとしたあの政治上の意見においても、彼は寛容で穏和であって、おそらくここに語るわれわれよりもいっそうそうであろう。――ディーニュの市役所の門衛は皇帝からそこに置かれたものであった。彼は以前の近衛軍の老下士で、アウステルリッツの戦いに臨んだ勲章所有者で、鷲《わし》の紋章のごとく離るべからざるブオナパルト
前へ
次へ
全639ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング