、銀の食器のはいってる籠《かご》だった。彼はそれを取り、もう何の用心もせず足音にも気をとめずに大またに室を通り、扉《とびら》の所に達し、礼拝所にはいり、窓を開き、杖を取り、窓縁をまたぎ、背嚢《はいのう》に銀の食器をしまい、籠をなげ捨て、庭を過ぎ、虎《とら》のように壁を飛び越え、そして姿を消した。

     十二 司教の働き

 翌朝、日の出る頃、ビヤンヴニュ閣下は庭を歩いていた。
 マグロアールがすっかり狼狽《ろうばい》して彼の所へかけてきた。
「旦那《だんな》様、旦那様、」と彼女は叫んだ、「銀の器《うつわ》の籠《かご》はどこにあるか御存じでいらっしゃいますか。」
「知っているよ。」と司教は言った。
「まあありがたい!」と彼女は答えた。「私はまた、どうなったかと思いました。」
 司教は花壇の中でその籠を拾ったところだった。彼はそれをマグロアールに差し出した。
「ここにあるよ。」
「え?」と彼女は言った、「中には何もないではございませんか。銀の器は?」
「ああそう、」と司教は言った、「お前が心配しているのは銀の器だったのか。それはどこにあるか私も知らない。」
「まあ何ということでしょう! 盗まれたんでございますよ。昨晩のあの男が盗んだのでございますよ、きっと。」
 すぐに、元気のよい老婦マグロアールは勢いこんで礼拝所へかけてゆき、寝所にはいり、そしてまた司教の所へ戻ってきた。司教は身をかがめて、籠《かご》が花壇に落ちた時に折られたギーヨンのコクレアリアの草花を嘆息しながらながめていた。彼はマグロアールの声に身を起こした。
「旦那《だんな》様! あの男は逃げてしまいました。銀の器は盗まれたのです。」
 そう叫びながら彼女の目は、庭のすみに落ちた。そこには壁をのり越した跡が見えていた。壁の屋根の垂木《たるき》が取れていた。
「もし、あそこから逃げたのです。コシュフィレ通りへ飛び越したのです。まあ悪いやつ。銀の器を盗んだのでございますよ。」
 司教はちょっと黙っていた。それから、まじめな目をあげて、穏かにマグロアールに言った。
「が第一に、あの銀の食器は私どもの物だったのかね。」
 マグロアールは茫然《ぼうぜん》としてしまった。しばし沈黙が続いて、それから司教は言った。
「マグロアールや、私は誤って長い間あの銀の器を私していた。あれは貧しい人たちのものなんだ。ところであの
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