とについて、考《かんが》えつづけています。(訳者)
[#ここで字下げ終わり]


 クリストフがいる小さな町《まち》を、ある晩、流星《りゅうせい》のように通りすぎていったえらい音楽家《おんがくか》は、クリストフの精神《せいしん》にきっぱりした影響《えいきょう》を与えた。幼年時代《ようねんじだい》を通じて、その音楽家の面影《おもかげ》は生きた手本《てほん》となり、彼《かれ》はその上《うえ》に眼《め》をすえていた。わずか六歳の少年《しょうねん》たる彼が、自分もまた楽曲を作ってみようと決心《けっしん》したのは、この手本に基《もとづ》いてであった。だがほんとうのことをいえば、彼《かれ》はもうずいぶん前から、知《し》らず知《し》らずに作曲《さっきょく》していた。彼が作曲し始《はじ》めたのは、作曲していると自分《じぶん》で知るよりも前《まえ》のことだったのである。
 音楽家《おんがくか》の心にとっては、すべてが音楽《おんがく》である。ふるえ、ゆらぎ、はためくすべてのもの、照《て》りわたった夏《なつ》の日、風の夜、流《なが》れる光、星のきらめき、雨風《あめかぜ》、小鳥《ことり》の歌、虫の羽音《はおと
前へ 次へ
全39ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング