え》のことを思う時のもある。自分がいやしい罪人《つみびと》だったからといって、まるで虫《むし》けら[#「けら」に傍点]みたいなものだったからといって、自分《じぶん》の身がつくづくいやになった時のもある。ほかの人が親切《しんせつ》にしてくれなかったからといって、泣《な》きたくなった時のもある。天気がよくて、いつも親切に笑《わら》いかけて下さる神様《かみさま》のような大空《おおぞら》が見えるからといって、楽しくなった時のもある。……どんなのでも、どんなのでもあるんだよ。何《なん》でほかのをつくる必要《ひつよう》があるものか。」
「偉《えら》い人になるためにさ……」と子供《こども》はいった。彼の頭は、祖父《そふ》の教《おしえ》と子供らしい夢《ゆめ》とで一ぱいになっていた。
ゴットフリートは穏《おだや》かに笑《わら》った。クリストフは少しむっ[#「むっ」に傍点]として尋《たず》ねた。
「なぜ笑《わら》うんだい!」
ゴットフリートはいった。
「ああ、おれは、おれはつまらない人間さ。」
そして子供《こども》の頭をやさしく撫《な》でながらきいた。
「お前は、偉《えら》い人になりたいんだね?」
「そうだよ。」とクリストフは得意《とくい》げに答えた。
彼はゴットフリートがほめてくれるだろうと思っていた。しかしゴットフリートはきき返した。
「何《なん》のためにだい?」
クリストフはまごついた。そして、ちょっと考《かんが》えてからいった。
「立派《りっぱ》な歌をつくるためだよ。」
ゴットフリートはまた笑《わら》った。そしていった。
「偉《えら》い人になるために歌《うた》をつくりたいんだね。そして、歌をつくるために偉い人になりたいんだね。それじゃあ、尻尾《しっぽ》を追《お》っかけてぐるぐるまわってる犬《いぬ》みたいだ。」
クリストフはひどく気《き》にさわった。ほかの時だったら、いつもばかにしている小父《おじ》からあべこべにばかにされるなんて、我慢《がまん》が出来なかったかもしれない。それにまた理窟《りくつ》で自分をやりこめるほどゴットフリートが利口《りこう》だなどとは、思いもよらないことだった。彼《かれ》はやり返してやる議論《ぎろん》か悪口《あっこう》を考えたが、思いあたらなかった。ゴットフリートは続《つづ》けていった。
「もしお前が、ここからコブレンツまであるほど大きな人物
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