トフはいつも夜《よる》よく眠れないで、夜の間に昼間《ひるま》の出来事《できごと》を思いかえしてみる癖《くせ》があって、そんな時に、小父《おじ》はたいへん親切《しんせつ》な人だと考え、その憐《あわ》れな人に対する感謝《かんしゃ》の気持《きもち》がこみ上げて来《く》るのだった。しかし昼《ひる》になると、また彼をばかにすることばかり考えて、感謝《かんしゃ》の様子などは少《すこ》しも見せなかった。その上、クリストフはまだ小《ちい》さかったので、善良《ぜんりょう》であるということの価値《かち》が十分にわからなかった。子供《こども》の頭《あたま》には、善良と馬鹿とは、だいたい同じ意味《いみ》の言葉と思《おも》われるものである。小父《おじ》のゴットフリートは、その生《い》きた証拠《しょうこ》のようだった。
ある晩《ばん》、クリストフの父が夕食をたべに町に出《で》かけた時、ゴットフリートは下の広間《ひろま》に一人残っていたが、ルイザが二人《ふたり》の子供《こども》をねかしている間《あいだ》に、外に出《で》てゆき、少し先の河岸《かし》にいって坐《すわ》った。クリストフはほかにすることもなかったので、あとからついていった。そしていつもの通り、子犬《こいぬ》のようにじゃれついていじめた揚句《あげく》、とうとう息《いき》を切《き》らして、小父《おじ》の足もとの草《くさ》の上にねころんだ。腹《はら》ばいになって芝生《しばふ》に顔をうずめた。息切れがとまると、また何《なに》か悪口《わるくち》をいってやろうと考えた。そして悪口が見つかったので、やはり顔を地面《じべた》に埋《うず》めたまま、笑《わら》いこけながら大声《おおごえ》でそれをいってやった。けれど何《なん》の返事もなかった。それでびっくりして顔《かお》を上《あ》げ、もう一|度《ど》そのおかしな常談《じょうだん》をいってやろうとした。すると、ゴットフリートの顔《かお》が目の前にあった。その顔は、金色《こんじき》の靄《もや》のなかに沈《しず》んでゆく夕日《ゆうひ》の残りの光《ひかり》に照らされていた。クリストフの言葉は喉《のど》もとにつかえた。ゴットフリートは目を半《なか》ばとじ、口を少しあけて、ぼんやり微笑《ほほえ》んでいた。そのなやましげな顔には、何《なん》ともいえぬ誠実《せいじつ》さが見えていた。クリストフは頬杖《ほおづえ》をついて、
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