り》きりでほかに身寄《みより》の者《もの》もなかった。二人《ふたり》とも生活のためにひどく苦労《くろう》して、やつれはてていた。人知《ひとし》れず忍《しの》んできた同じような苦《くる》しみとお互《たがい》の憐《あわ》れみの気持《きもち》とが、悲しいやさしみをもって二人を結《むす》びつけていた。生《い》きるように、楽しく生きるように頑固《がんこ》に出来上ってる、丈夫《じょうぶ》な騒々《そうぞう》しい荒《あら》っぽいクラフト家《け》の人たちの間にあって、いわば人生の外側《そとがわ》か端《はし》っこにうち捨てられてるこの弱い善良《ぜんりょう》な二人《ふたり》は、今までお互に一|言《こと》も口には出《だ》さなかったが、互《たがい》に理解《りかい》しあい憐《あわ》れみあっていた。
クリストフは子供《こども》によく見られる思いやりのない軽率《けいそつ》さで、父や祖父《そふ》の真似《まね》をして、この小さい行商人《ぎょうしょうにん》をばかにしていた。おかしな玩具《がんぐ》かなんかのように彼を面白がったり、悪《わる》ふざけをしてからかったりした。それを小父《おじ》([#ここから割り注]小さい行商人[#ここで割り注終わり])はおちつき払って我慢《がまん》していた。でもクリストフは、知らず知らずに彼を好《す》いてるのだった。第一に、思うままになるおとなしい玩具《がんぐ》として、彼が好《す》きだった。それからまた、いつも待《ま》ちがいのあるいいもの、菓子《かし》とか絵《え》とか珍《めず》らしい玩具などを持って来《き》てくれるから、好《す》きだった。この小さい男が戻《もど》って来《く》ると、思いがけなく何《なに》か貰《もら》えるので、子供たちはうれしがった。彼は貧乏《びんぼう》だったけれど、どうにか工面《くめん》して一人一人《ひとりびとり》に土産物《みやげもの》を持って来《き》てくれた。また彼は家の人たちの祝《いわ》い日を一|度《ど》も忘《わす》れることがなかった。誰《だれ》かの祝《いわ》い日になると、きっとやってきて、心をこめて選《えら》んだかわいい贈物《おくりもの》をポケットからとりだした。誰《だれ》もお礼をいうのを忘《わす》れるほどそれに馴《な》れきっていた。彼の方《ほう》では、贈物《おくりもの》をすることがうれしくて、それだけでもう満足《まんぞく》してるらしかった。けれど、クリス
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