残っている。そこには、貪欲《どんよく》なヨーロッパのまん中に、二十四連邦の小島が残存している。(それもいつまでのことであろうか?)もちろんそこには、旧都[#「旧都」に傍点]の詩的幻影は輝いていない。人の呼吸する空気に神々や英雄らの香を交じえる歴史は存在していない。しかし力強い音楽が赤裸な大地[#「大地」に傍点]から立ちのぼっている。山々の線は勇壮な律動《リズム》をもっている。そして他のどこにおけるよりもここでは、根原的な力との接触が感ぜられる。クリストフがこの地に来たのは、ロマンチックな楽しみを求めんがためにではなかった。一つの畑地、数本の樹木、一筋の細流、広い青空、それだけで彼は生きるに十分だった。故郷の土地の穏やかな顔つきのほうがアルプス山の巨人と神との争闘[#「巨人と神との争闘」に傍点]よりも、彼にはいっそう親しみ深かった。しかし彼は、この地で力を回復したのだということを忘れ得なかった。この地において神は燃ゆる荊[#「燃ゆる荊」に傍点]の中で彼に現われたのだった。彼はここへもどり来たって、感謝と信念とのおののきを感ぜざるを得なかった。彼は孤独ではなかった。生に痛められたいかに多く
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