。しばしば居所を変えた。この年老いた放浪の鳥には、広い空間が必要であって、その祖国は空中にあった……「予が国は空中にあり[#「予が国は空中にあり」に傍点]……。」
夏の夕方。
彼はある村の上方の山中を散歩していた。帽子を手にもって、羊腸たる山路を上っていった。ある曲がり角まで行くと、道は二つの斜面の間の影の中をうねっていた。榛《はしばみ》の茂みや樅《もみ》の木立が道の両側に並んでいた。四方ふさがれた小さな世界に似ていた。前後の曲がり角で、道は宙に浮いてそこで終わってるかのようだった。その彼方《かなた》には、青白い遠景と光を含んだ空気とがあった。夕べの静穏が苔の下に音をたてる涓滴《けんてき》のように、一滴ずつおりてきた。
道の向こうの曲がり角から、彼女が出て来た。黒い服装をして、空の明るみの上に浮き出していた。その後ろには、六歳から八歳ぐらいの男と女との小さな子供が、戯れたり花を摘んだりしていた。数歩進むと二人はたがいに相手を見てとった。感動はたがいの眼の中に現われた。しかしなんらの強い言葉も発せず、驚きの身振りさえほとんどしなかった。彼は非常に心乱されていた。彼女は……唇《くち
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