たがフランス人についておっしゃったことに、私は興味を覚えます、そして別に意外とは存じません。フランス人にたいするあなたの不当な御意見を私がたびたびとがめましたことは、覚えていらっしゃいましょうね。フランス人を愛さないということはできます。けれども彼らはなんという怜悧《れいり》な民衆でしょう! 善良な心と強健な肉体とに救われている凡庸な民衆はいくらもあります。ところがフランス人は知力で救われております。知力は彼らのあらゆる弱点を洗い清めます、知力は彼らを生き返らせます。彼らは没落し倒壊し腐敗しているように見えるときにでも、自分の精神から不断に湧《わ》き出している泉の中に、新しい若さをふたたび見出すのです。
 私はあなたに小言《こごと》を申さなければなりません。あなたは自分のことばかり語るのを許してくれとおっしゃいました。あなたはほんとに瞞着家[#「瞞着家」に傍点]です。少しも御自分のことを私に聞かしてはくださいません。あなたのなすったことは何にも、あなたの御覧なすったことは何にも、私に聞かしてはくださいません。従姉《いとこ》のコレットが――(なぜあなたは彼女を訪《たず》ねてはくださらないのですか)――あなたの音楽会に関する新聞の切り抜きを送ってくれましたので、私はようやくあなたの成功を知ったのでした。そんなことをあなたはついでに一言おっしゃったきりです。それほどあなたはいっさいのことに無頓着《むとんじゃく》なのでしょうか?……いえそうではありません。成功したのは愉快だとおっしゃってください……。あなたには愉快なはずですもの。なぜなら第一に私に愉快ですから。私は悟りすましたあなたの様子を見たくはございません。あなたのお手紙は悲しい調子でした。それはいけません……。あなたが他人にたいしていっそう正当な意見をもたれるようになりましたのは、ほんとうによいことです。けれどもそれは、あなたがなすってるように、自分は彼らのうちの劣等な者よりもいっそう劣等だと言って、しおれ返る理由とはなりません。りっぱなキリスト教徒ならあなたをほめるかもしれません。けれど私はそれはいけないと申します。私はりっぱなキリスト教徒ではございません。私はまさしくイタリーの女ですから、過去を苦にすることは好みません。現在だけでたくさんです。あなたが昔どんなことをなすったか、それを私はよく存じてはおりません。あなたはそれを少しばかりおっしゃったきりで、その他のことはみな私の推察です。それはあまりりっぱな事柄ではありませんでした。それでも私にはやはりあなたが貴いのです。ねえあなた、私ほどの年齢に達した女は、りっぱな男の方はたいてい弱いものだということを存じております。その弱さを知らなかったら、さほど愛せられるものではありますまい。昔なすったことはもうお考えなさいますな。これからなさることをお考えなさいませ。後悔はなんの役にもたちません。後悔とはあとにもどることです。そして善においても悪においても、常に前へ進まなければいけません。前へ進め[#「前へ進め」に傍点]、サヴォア兵[#「サヴォア兵」に傍点]! です。……あなたは、私があなたをローマへもどらせるとでもお思いになってはしませんか。この地ではあなたのなさることは何にもありません。パリーにとどまって、創作し、活動し、芸術的生活に交わりなさいませ。あなたが断念なさることを私は望みません。私はただ、あなたがりっぱなものをお作りなさること、それが成功を博すること、あなたが強くしっかりしていられて、同じ戦いをくり返し同じ苦難を通ってゆく、新しい若いクリストフたちをお助けなさること、それが望みです。彼らを捜し出し、彼らをお助けなさい。先輩の人たちがあなたに尽くしてくれたよりも、もっとよく、後輩の人たちに尽くしておやりなさい。――そして最後に、あなたの強者であることが私にもよくわかるように、あくまでも強者であられることを望みます。そのことが私自身にどんなに力を与えるか、あなたは夢にも御存じありますまい。
 私はほとんど毎日のように、子供たちといっしょにボルゲーゼの別墅《べっしょ》へまいります。一昨日は、馬車でモーレ橋へまいりまして、それから徒歩でマリオ丘を一周しました。あなたは私の足を悪口おっしゃいましたね。私の足はあなたに怒っております。――「ドリアの別墅を十歩も歩くとすぐに疲れてしまうなどと、あの方はまあ何をおっしゃるのだろう! あの方は私を御存じないのだ。私が骨折るのをあまり好かないのは、怠《なま》け者だからで、できないからではない……。」――ねえあなたは、私が田舎娘《いなかむすめ》であることを忘れていらっしゃいますのね。
 従姉のコレットへ会いに行ってくださいませんか。あなたはまだ彼女を恨んでいらっしゃるのですか? 彼女は本来は
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