て、それをいかにも自然らしく働かしていた。ジャックリーヌはすぐに心服してしまった。彼女はその慈善事業に熱中した。少なくとも熱中してるつもりだった。アンジェール尼は熱中さすべき相手を見分けることができた。同じような熱中を起こさせることに慣れていた。そしてその熱中には気づかないようなふうをしながら事業のためと神の光栄のためにそれを冷やかに利用することを知っていた。ジャックリーヌは自分の金と意志と心とをささげた。彼女は慈悲深かった。彼女は愛によって信仰した。
人々はやがて彼女が惑わされてることに気づいた。気がつかないのは彼女一人だった。ジョルジュの後見人は気をもんだ。あまりに鷹揚《おうよう》で軽率で金銭のことなんか気にかけないジョルジュでさえ、母親が利用されてることに気づいた。そして不快を感じた。彼は彼女との過去の親密を回復しようとしたが、もう時期おくれだった。二人の間には幕が張られてることを見てとった。彼はそれをこの惑わしの影響の罪だとして、ジャックリーヌにたいしてよりもむしろ、彼が陰謀家と呼んでる尼僧にたいして、一種の憤激を感じ、それを少しも隠さなかった。当然自分のものだと信じている母の心の中に、他人が地位を奪いに来ることを許し得なかった。地位を奪われるのは自分がそれを打ち捨てたからだとは考えなかった。地位を回復しようとはつとめもしないで、母の気を害するような拙劣な態度をとった。どちらも短気で熱烈な母と子との間には、激しい言葉がかわされた。分裂はなおひどくなった。アンジェール尼はジャックリーヌを手中に収めてしまった。ジョルジュは遠のいて勝手気ままな振る舞いをした。積極的な奔放な生活を送った。賭《か》け事をやって莫大《ばくだい》な金を失った。一つには面白いので、また一つには母の無鉄砲さに報いるために、自分の無鉄砲な行ないを高々と吹聴《ふいちょう》した。――彼はストゥヴァン・ドレストラード家の人々を知っていた。コレットはこの美少年に注意を向けて、けっして働きやめない自分の魅力を試《ため》さずにはいなかった。彼女はジョルジュの乱行をよく知っていて、それを面白がっていた。しかし軽佻《けいちょう》さの下に隠れてる良識と実際の温情との素質によって、彼女はこの無茶な若者が冒してる危険を見てとった。そして彼をその危険から救うのは自分にはできないことだとよく知っていたので、クリストフ
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