、二十年後には自分がどうなるだろうかを強《し》いて見させられるのを、許しがたく思うものである。
 クリストフはエマニュエルの心中を読み取ってみずから考えた。
「彼にも理由がある。人は各自に信念をもっている。人の信じてることを信じてやらなければいけない。未来にたいする彼の信頼の念を私は乱したくないものだ!」
 しかし彼が眼前にいるだけでエマニュエルの心は乱れた。二つの人格がいっしょにいるときには、両者たがいにおのれを潜めようといかに努めても、常に一方は他方を圧迫し、そして他方は屈辱の恨みをいだくものである。エマニュエルの高慢心は、クリストフの経験と性格との優越に苦しめられた。またおそらく彼は、クリストフにたいしてしだいに愛情が生じてくるのを押えてもいたであろう……。
 彼はますます粗暴になっていった。扉《とびら》を閉ざしてしまった。手紙をもらっても返事を出さなかった。――クリストフは彼に会うことを断念しなければならなかった。

 七月の初めとなった。クリストフはパリーに数か月滞在して、多くの新しい観念を得たが友人をあまり得なかったことどもを、考えまわしてみた。赫々《かくかく》たるしかもばかげた成功だった。弱められもしくは滑稽《こっけい》化された自分の面影を、自分の作品の反映を、凡庸な人々の頭脳の中に見出すこと、それは少しも愉快なことではなかった。そして理解してもらいたい人々からは同感を寄せられなかった。彼らは彼のほうから進んできても受けいれなかった。彼は彼らの希望に自分も加わってその味方の一人になろうといかに願っても、彼らの仲間にはいることができなかった。あたかも彼らの不安な自負心は、彼の友情をしりぞけて彼を敵とするほうを好んでるかのようだった。要するに彼は、時代の流れをやり過ごしてそれとともに移り行かなかったし、またつぎの時代の流れからは好まれなかったのである。彼は孤立していた。そして生涯《しょうがい》それに馴《な》れていたから別段驚かなかった。しかし彼は今や、この新たな試みのあとに、スイスの草廬《そうろ》に立ちもどって、近来ますますはっきりしてきたある計画の実現を待つことにしても、もうさしつかえあるまいと考えた。彼は年を取るに従って、故郷の土地に帰り住みたい願いに悩まされた。もう故郷にはだれも知人はなかったし、この他国の都におけるほどの精神的縁故をも見出し得ないに
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