ひわい》な空気で皆を包み込んだりしていた。手におえない蓮葉《はすっぱ》女だった。おそらくグライヨーと通じて彼を裏切ってるかもしれなかった。おそらく彼にそう信じさせるのを愉快がってるのかもしれなかった。がいずれにしても、それが今日のことでないとすれば、明日のことであったろう。彼女がだれでも気に入った男を愛するのを、ジューシエはあえて禁じ得なかった。彼は男にたいすると同様に女にたいしても、自由たるの権利を公言したではないか。彼女は彼からののしられたある日、狡猾《こうかつ》な傲慢《ごうまん》さでそのことを彼に思い出さした。彼のうちで、自由な理論と激しい本能との間に、苦しい争闘が行なわれた。彼は心ではやはり、専制的な嫉妬深い昔の人間だった。が理性では、未来の人間であり、理想郷の人間だった。彼女のほうは、昨日と明日との女であり、いつでもの女だった。――オリヴィエは、その隠れたる闘争をながめ、その闘争の獰猛《どうもう》さを自身の経験で知っていたので、ジューシエの弱さを見てとりながら、深い憐《あわ》れみの情を起こした。ジューシエはオリヴィエから心中を読みとられてることを察知していた。そしてオリヴィエ
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