《のど》から出なかったり、変に調子はずれになったりした。彼は自分自身を観察し、自分を困らし、また他の人々を困らした。そしてそれをみずからよく知っていた。自分は彼らにとって一つの他国人であり怪しい人間であること、だれも自分に同感をもっていないということ、自分が立ち去ると皆はほっと息をつくこと、などを彼は知っていた。きびしい冷たい眼つきを、貧困のためにいらだたせられてる労働者らが中流人に注ぐあの敵意ある眼つきを、彼は通りがかりにとらえることがあった。おそらくクリストフにもそういう眼つきは向けられたであろう。しかしクリストフはそれを少しも気づかなかった。
 仲間のうちで、オリヴィエと交わる気持をもってるのは、オーレリーの子供たちばかりだった。この子供たちは確かに、中流人を嫌悪《けんお》してはいなかった。小さな男の子のほうは、中流人の思想に惑わされていた。その思想を好むくらいに怜悧《れいり》だったし、その思想を理解するほど怜悧ではなかった。娘のほうはごくきれいな子で、一度オリヴィエからアルノー夫人の家に連れて行かれたことがあって、奢侈《しゃし》に眼がくらんでいた。美しい肱掛椅子《ひじかけいす》
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