笑を浮かべて、その話に耳を傾けていた。時には話に口を出し、仕事をしながら頭を動かして、自分の言葉の調子をとっていた。彼女にはもう結婚してる一人の娘と、七歳から十歳ばかりの二人の子供――娘と息子《むすこ》――とがあった。この二人は汚《よご》れたテーブルの片隅《かたすみ》で学校の宿題をしながら、舌を出したり、または、自分たちにまったく無関係なその会話の断片を、小耳にはさんだりしていた。
オリヴィエは二、三度、クリストフについて行ってみた。しかしそれらの人々の間にはいると、楽な気持を感じなかった。それらの労働者らが、工場の厳格な時間や執拗《しつよう》な汽笛を鳴らす製作所の呼び出しなどに、身を縛られていない場合に、あるいは仕事のあと、あるいは仕事と仕事との間、あるいはぶらついたり、あるいは業を休んだりして、どんなに多くの時間を空費してるかは、人の想像にも及ばないほどだった。クリストフも、精神的に一つの製作を終えて他の新しい製作が生ずるのを待つという、無為閑散な自由の時期にあったから、彼らと同じく少しも気があせっていなかった。彼は喜んでテーブルに両|肱《ひじ》をついて、煙草をふかしたり酒を飲ん
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