僂《せむし》を見ると自分の背中が痛くなる……。だが喜劇というのは、われわれがそれを演じてるのであって、われわれがそれを書こうというのじゃないんだ。」
 彼は社会的正義などという夢にとらわれてはいなかった。彼は通俗的な粗大な良識からして、前にあったことはあとにもあるだろうと信じていた。
「もしそのことを芸術について人から言われたら、君はさぞ憤慨するだろうじゃないか。」とオリヴィエは注意した。
「おそらくそうかもしれない。要するに僕は芸術にしか通じていないんだ。そして君も同様だ。僕は不案内な事柄を云々《うんぬん》する人々を信用しないよ。」
 オリヴィエも信用してはいなかった。彼ら二人は、その疑念をやや大袈裟《おおげさ》なものになしていた。彼らはいつも政治の圏外に立っていた。オリヴィエは多少恥じらいながらも、選挙権を行使した記憶がないことを告白した。十年この方彼は、区役所に名前の登録さえしていなかった。
「無益だとわかってる喜劇にどうして加われるものか。」と彼は言った。「投票するというのか。いったいだれのために投票するんだ? 僕は候補者らのうちのだれを選んでよいかまったくわからない。彼らは僕
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