っている。」と彼は言った。「僕の父や母や僕は、貧困を通り過ぎてきたのだ。要はただそれから脱しさえすればよいのだ。」
「それがだれにでもできるものではない。」とオリヴィエは言った。「病人や不運な人々にはできない。」
「そういう人々は助けてやればいい。ごく簡単なことだ。しかし助けることと、今日人がしているように彼らを称揚することとには、遠い隔たりがある。近来、もっとも強い者の忌むべき権利が削減されてきた。しかし僕に言わすれば、もっとも弱い者の権利のほうがなおいっそう忌むべきものであるかもしれない。それは現今の思想を萎靡《いび》させ、強者を虐《しいた》げ利用している。あたかも、病弱で貧乏で愚昧《ぐまい》で打ち負けてることが、一つの価値とでもなったかのようだ――強くて健康で打ち勝つことが、一つの不徳とでもなったかのようだ。そしてもっとも滑稽《こっけい》なのは、強者がそれをまっ先に信じてるということだ。……ねえオリヴィエ、喜劇のよい題材ではないか。」
「僕は他人を泣かせることより、自分が人の笑い事になるほうを好むのだ。」
「感心だ!」とクリストフは言った。「だれがそれに反対を唱えるものか。僕は佝
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