日来食事もほとんどしていなかった。眼の前に霧がかかってるようだった。彼は谷の方へ降りていった。――それは復活祭の週間だった。曇り日だった。冬の最後の襲撃が打ち負かされていた。暖かい春が醸《かも》されていた。下のほうの村々から鐘の音が聞こえてきた。最初にその音を送ってきた村は、山のふもとの窪《くぼ》地に巣のようにうずくまって、ビロードのような厚い苔《こけ》に覆《おお》われた、黒色や金|褐《かっ》色などいろんな色の藁《わら》屋根を並べていた。つぎの村は、山の向こう側の斜面にあって見えなかった。つぎには、河の彼方の平野にある村々。そしてずっと遠方には、靄《もや》の中に隠れてる町から来る大鐘の音……。クリストフは立ち止まった。心はつぶれそうになっていた。それらの鐘の音はこう言うかのようだった。
「われわれといっしょに来たまえ。ここにこそ平和がある。ここでは悲しみは死にうせる。思考とともに死にうせる。われわれは魂をうまく揺《ゆ》すってやるので、魂はわれわれの腕に抱かれて眠ってゆく。ここへ来て、休みたまえ、君はもう眼を覚《さ》ますことがないだろう……。」
いかに彼は疲れきってたことだろう! いか
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