きなくなった。
彼は自分でも何をしているのかわからずに、いきなり立ち上がり、室から出て行き、宿屋の勘定を払い、アンナの町へ行く第一の汽車に乗った。真夜中に到着した。まっすぐに彼女の家へ行った。ブラウンの庭に隣接してる庭と通りとの間に、一つの塀《へい》があった。クリストフはその塀を乗り越え、他家の庭に飛び降り、そこからブラウンの庭にはいった。彼は家と面して立った。家はすっかり闇に包まれていたが、ただ一条の夜燈の光が薄黄色い反映で、一つの窓を染めていた――アンナの窓を。そこにアンナがいた。そこで苦しんでいた。彼はもう一歩で中にはいれるのだった。彼は扉《とびら》の把手《とって》のほうへ手を差し伸べた。それから、自分の手を、扉を、庭を、うちながめた。にわかに自分の行動を意識した。そして、七、八時間以来自分をとらえていた幻覚から覚《さ》めて、ぞっと震え上がり、足を地面に釘《くぎ》付けにしてる麻痺《まひ》の力から、身を引きもぎって飛びのき、塀のところへ駆けてゆき、それをまた越えて、逃げ出した。
その夜、彼はふたたび町から去った。そして翌日は、山間の村落へ、吹雪の下に、自分を葬りに行った……。自
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