いた。けれどその憧れがどういうものであるかは自分でもはっきりわからなかった。自由のなんたるやを学び知ることは、彼の環境ではできなかった。彼が知ったことは、自由というものは自分の環境にはないということだけだった。そして、自分の環境から脱しさえすれば自由が見つかるだろうと想像した。が彼は一人で進むことができなかった。少しく外部へ踏み出すや否や、学生時代の友人らといっしょになるのを喜んだ。友人のある者は産業革命の思想に熱中していた。彼は脱出してきた社会におけるよりも、その社会ではいっそう他国にいる気がした。しかしそうだと自認したくはなかった。とにかくどこかで生きなければならなかった。そして自分と同じ色合いの連中(言い換えれば色合いのない連中)を、彼は見出すことができなかった。それでも神の眼から見れば、そういう連中はフランスに少なくはない。ただ彼らは自分自身を恥ずかしがっていて、身を隠しているか、あるいは、流行してる政治色彩の一つに、のみならず幾つにも、身を染めてるのである。
 いつもよくあるとおり、彼は自分ともっとも異なってる友人へとくに結びついた。魂の底ではフランスの田舎《いなか》の中流人
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