ベービの眼を覚《さ》ますかもしれないことなんかは考えもしないで、扉を揺《ゆ》すぶってみた。が扉はびくともしなかった……。彼はそれと悟った。アンナは居室につづいてる化粧室に、小さなガス暖炉をもっていた。その口を開け放したのだった。もう扉を打ち破らなければならなかったけれど、クリストフはその惑乱のうちにも理性を失わないで、どんなことがあってもベービに聞かれてはいけないということを思い出した。彼は無言のうちに、扉の一方を力をこめて押してみた。扉は丈夫でよく締まっていて、肱金《ひじがね》の上に軋《きし》っただけで、少しも動かなかった。他にも一つ扉が、アンナの室とブラウンの書斎との間にあった。彼はそこに駆けていった。その扉も同じく締っていた。しかしその錠前は外側についていた。彼はそれをもぎ取ろうと企てた。それは容易なことではなかった。木にうちつけてある四つの太い捻釘《ねじくぎ》を引き抜かねばならなかった。彼はただナイフをしかもっていなかった。そして何にも見えなかった。というのは、蝋燭《ろうそく》の火をともしかねた。火をともせば、室じゅうを爆発させる恐れがあった。彼は手探りで、一本の捻釘の頭にナイ
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