ていった。家じゅうの物音が聞こえるように、扉《とびら》を半ば開いておくだけの注意までした。しかし悲しいかな彼女は、寝床にはいるとすぐに眠った。しかもその眠りは、夜が明けない限りは、雷が鳴ろうとまたいかに好奇心が強かろうと、なかなか覚《さ》めそうもないほど深いものだった。その眠りはだれにも知れずにはいなかった。鼾《いびき》の音が階下までも響いていた。
 クリストフはその耳|馴《な》れた音を聞くと、アンナのところへやって行った。彼女に話をしなければならなかった。彼は一種の不安に駆られていた。扉のところまでいってその把手《とって》を回した。扉は締めきってあった。彼は静かにたたいた。返辞がなかった。彼は錠前に口を押し当てて、低い声で頼み、つぎにはしつこく頼んだ。なんの動きもなければ、なんの音もしなかった。アンナは眠ってるのだといくら考えても、ある心痛にとらえられた、そして中の様子を聞き取ろうといたずらにつとめながら、扉《とびら》に頬《ほお》をつけていると、敷居のところから漏れてくるらしいある臭気に打たれた。彼は身をかがめてそれを嗅《か》ぎ分けた。ガスの臭《にお》いだった。彼の血はぞっと凍った。
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