愛嬌《あいきょう》があって、真理を、全真理を、自分が握ってるという意識から生ずる、泰然自若たる平静さをそなえていた。懇切にアンナの健康を尋ね、求めもしないのに彼女が言いたてる弁解の言葉を、上《うわ》の空で丁寧《ていねい》に聞いてやり、一杯の茶を飲み、楽しげに冗談を言い、聖書《バイブル》の中に述べられてる葡萄《ぶどう》酒はアルコール分のある飲料ではなかったという意見を、飲み物のことから言い出し、文句を少し引用してきて、逸話を一つ話し、それから、辞し去るときになって、悪い人物と交わる危険や、ある種の散歩や、不信仰な精神や、舞踏の不純さや、汚らわしい欲望などについて、それとなく諷示《ふうし》した。それもアンナに向かって言ってるのではなくて、時代一般の人に向かって言ってるようなふうだった。彼はちょっと口をつぐみ、咳をし、立ち上がり、ブラウン氏へ大袈裟《おおげさ》な挨拶の伝言を頼み、ラテン語でちょっと洒落《しゃれ》を言い、礼をして、帰っていった。――アンナは諷示の言葉にぞっとした。それは一つの諷示だったろうか? クリストフとアンナとの散歩を、どうして彼が知り得たろうか? 二人は散歩中だれにも知人
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