つけようとはしなかったが、ただ喜んで撫《な》でてやり、膝の上にすわらしてやり、食物の世話をしてやり、彼女相当の愛し方をしてやってるようだった。ところがある日、犬は一台の自動車の車輪を避けそこなった。ほとんど飼い主たちの眼前で轢《ひ》きつぶされた。まだ生きていて悲しげに泣いていた。ブラウンは帽子もかぶらずに家から飛び出した。血まみれの犬を抱き上げて、少なくともその苦痛を和らげてやろうとした。アンナもやって来たが、身をかがめもしないでうちながめ、不快そうに顔を渋めて、立ち去ってしまった。ブラウンは眼に涙を浮かべて、小さな動物の臨終の苦しみを見守った。クリストフは庭の中を大跨《おおまた》に歩き回り、両の拳《こぶし》を握りしめていた。アンナが平然と女中へ用を言いつけてるのが聞こえた。彼は言ってやった。
「あなたは平気なんですか、あなたは?」
彼女は答えた。
「どうにもできないではありませんか。考えないほうがよろしいんです。」
彼は彼女を憎い気がした。それから、返辞の滑稽《こっけい》さにびっくりした。そして笑い出した。悲しい事柄を考えない方法をアンナから教わりたいものだ、と彼は考えた。幸いに
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