分けられるものはただ、移り動く大きな波紋、無数の細流や奔流や渦《うず》巻ばかりで、それが形を現わしたり消えたりしていた。それはあたかも、幻惑してる思想の中における渾沌《こんとん》たる物象に似ていた。それはいつも描き出され、またいつも融《と》け合ってしまう。その薄ら明かりの夢の上を、一人の人影も見えない幽鬼めいた渡し舟が、柩《ひつぎ》のようにすべり動いていた。夜の闇《やみ》は濃くなっていった。河は青銅のようになった。岸の燈火が、河の漆黒な鎧《よろい》を輝《て》らして、暗い閃《ひら》めきを放たした。ガス燈の銅色の反映、電気燈の月色の反映、人家の窓ガラス越しの蝋燭《ろうそく》の血色の反映。そして河の囁《ささや》きが闇にいっぱいこもっていた。永遠の水音、単調なために海の音よりいっそう物悲しい音……。
クリストフは幾時間も、その死滅と倦怠《けんたい》との歌に聞きふけった。それと別れることがなかなかできなかった。それから、まん中が擦《す》りへってる赤い石段の険しい小路を、家のほうへ上っていった。身体も魂もがっかりしていた。壁にはめ込まれてる鉄の手摺《てすり》が、ずっと上のほう、闇に包まれてる教会
前へ
次へ
全367ページ中211ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング