を消し去ろうとつとめた。消え失せることだ……。苦悩は一人勝手なものである。愛していた人々もすべて、彼にとってはもう存在していなかった。ただ一人の者が存在してるのみだった、もう世にない一人の者が。幾週間もの間、彼はその一人を生き返らせようと熱中した。彼はその一人と話をし、その一人に手紙を書いた。
――わが魂である君よ、今日は君の手紙が来ない。君はどこにいるのか。もどって来てくれ、もどって来てくれ、僕に言葉をかけてくれ、僕に手紙をくれたまえ!……
しかし夜になっても、いくら努力をしても、彼はその人を夢にみることができなかった。およそ亡き人々は、悲嘆されてる間は夢に現われて来ることが少ない。あとになって忘却されるおりにふたたび現われてくるものである。
そのうちに外部の生活が、墓のごときクリストフの魂の中にしだいにはいり込んできた。彼は家の中の種々の物音を繰り返し耳にするようになり、みずから知らずしてそれに興味を覚え始めた。何時ごろ、そして日に幾度、そして客の種類に応じてどういうふうに、扉《とびら》が開いたり閉まったりするかを、彼は知った。ブラウンの足音を、彼は覚えた。ブラウンが往診から
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