はぞっとしてピアノから顔をそむけた。あらゆる音が忌まわしかった。沈黙、沈黙、そして闇夜!……彼のうちにはもはや、空虚と空虚の欲求としかなかった。生の喜びは終わりを告げ、昔歌いながら勢いにかられて舞い上がっていたあの力強い歓喜の小鳥は、もう終わりを告げていた。幾日も自分の室の中にすわって、自分の生について感ずるものはただ、頭の中に響いてるように思われる隣室の掛時計の跛の音のみだった。それでも、歓喜の粗野な小鳥はまだ彼のうちにいて、突然に飛びたっては籠《かご》の格子にぶつかっていた。そして魂の底には、恐ろしい苦悩の騒擾《そうじょう》が起こった――「広漠たる人なき空間にただ一人いる悩みの叫び[#「広漠たる人なき空間にただ一人いる悩みの叫び」に傍点]」が……。
世にもっとも悲惨なのは、ほとんど一人の伴侶《はんりょ》もいないということである。女の道連れや一時の友などはあり得る。友というりっぱな名前をもってる者はたくさんある。しかし実際においては、生涯にほとんど一人の友しかいないものである。そしてそういう友をもってる者もきわめてまれである。しかし友をもってる幸福は非常に大きいので、その友がいなく
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