論に費やそうとする。空中飛行か革命かである。筋肉を働かせるか想念を働かせるかである。人は若いおりには、自分が人類の大運動にたずさわっており、世の中を一新している、という幻をいだきたがる。世界のあらゆる息吹《いぶ》きに打ち震える官能をもっている。なんと自由で身軽であるだろう! まだ家族の重荷を負っていないし、何物ももっていないし、ほとんど懸念することはないのだ。まだ所有していないものをいかに寛大に見捨て得ることぞ。そのうえ、愛しまた憎むことは、夢想と絶叫とで地上を一変さしてると信ずることは、いかにうれしいことだろう! 若い人々は耳を澄ました犬のようである。見よ、彼らは風の音にも震え上がって吠《ほ》えたてる。世界の隅《すみ》で一つの不正がなされても、彼らはそのために熱狂する……。
 暗夜の中の吠え声。大なる森の中で、農園から農園へと、吠え声は休みなく応《いら》え合っていた。夜は騒々しかった。そういうときに眠るのは容易でなかった。風は多くの不正の反響を空中に運び回っていた。……不正は無数である。その一つを償わんとすれば他の多くを招致する恐れがある。不正とはいったいなんであるか?――ある者にと
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