もないことがあった。彼はその光の中でうっとりしていた。するとやがてまた夢想の黙々たる船が、大きな帆を張ってすべるように現われてきた。
 晩には佝僂《せむし》の少年がやって来た。オリヴィエはたくさんの物語を胸にいだいていたので、微笑《ほほえ》みながら我を忘れてその一つを話してやるのだった。そういうふうにして幾度彼は、一言も発しない少年をそばにして、前方をながめながら話したことだろう。しまいに彼は少年のいることも忘れてしまうのだった……。クリストフはあるとき話の最中にやって来て、その美しさに驚かされて、初めからその話をやり直してくれとオリヴィエに願った。オリヴィエは断わった。
「僕も君と同じようだよ。」と彼は言った。「もう自分にもわからないんだ。」
「そりゃあ嘘だ。」とクリストフは言った。「君は自分の言うことなすことはいつも覚えてるフランス人じゃないか。何一つ忘れるということがあるものか。」
「おやおや!」とオリヴィエは言った。
「さあもう一度話したまえ。」
「大儀だよ。何になるものかね。」
 クリストフは怒った。
「そりゃあいけない。」と彼は言った。「君は自分の思想をなんの役にたててるん
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