もありゃしない。其奴《そいつ》を反逆者だと君たちは言うのか。……まあそれもいいさ、がこんどはだれの番だ? 君たちもみんなそうなってしまうだろう。君たちのうち一人としてその誘惑に反抗できる者はいない。どうして反抗できるものか。君たちのうち一人として不滅の魂を信じてる者はいない。君たちはただ口腹にすぎないと僕は断言する。物をつめ込もうとばかり考えてる空《すき》っ腹ばかりだ。」
そうなると彼らは腹をたてて、皆一度に口をききだした。そしてクリストフは議論しながら、自分の熱情に引きずられて、一同よりももっと激しい革命家となることがあった。彼はいくらそうなるまいとつとめても駄目だった。彼の知力の高慢、精神の喜びのための純粋に審美的な一世界にたいする楽しい想念は、一つの不正の前に出ると地下に潜んでしまった。審美学が何になるか。十人のうち八人までが、欠乏困窮のうちに、肉体上や精神上の悲惨のうちに生きている、そういう世界が何になるか。しっかりせよ! そういうものをあえて主張するのは、破廉恥なる特権者にすぎないのだ。クリストフのごとき芸術家は、その良心においては、労働者の味方たらざるを得なかったのである。社会的境遇の不正や、財産の憎むべき不平等などを、精神的労働者以上に苦しむ者が世にあるか。芸術家が餓死するかあるいは百万長者になるかは、ただ流行の気まぐれや流行に乗ずる人々の気まぐれによるのみである。優秀者を滅ぶるに任したりあるいは途轍もない報酬を与えたりする社会こそ、実に奇怪なものと言うべきである。一度破壊する必要がある。各人は、働こうと働くまいと、日々のパンにたいする権利はもっている、いかなる仕事もそれぞれ、よい仕事であろうとつまらぬ仕事であろうと、その真価に応じてではなく――(だれが真価を確実に判定し得るものぞ)――それをしてる人間の正当通常な必要に応じて、報いられなければならぬ。社会の名誉となる芸術家や学者や発明家には、なおいっそう社会の名誉となるの時間と方法とを保証してやるだけの十分の礼金を、社会は与えることができるし与えなければいけない。それだけでよいのだ。ジョコンダ[#「ジョコンダ」に傍点]は金百万に当りはしない。一つの金額と一つの芸術品との間にはなんらの関係もないのだ。芸術品は金額より以上のものでも以下のものでもない。金額以外のものである。その代価を払うことが問題ではな
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