をつづけていたし、やはりときどきオーレリーの店へ食事をしに行った。一度そこへ行くと、もうほとんど用心しなかった。夢幻的な気分のおもむくままに任した。逆説なんかを恐れはしなかった。そして話の相手どもを、その主義の荒唐|無稽《むけい》な激越な極端にまで押し進めて、意地悪い喜びを味わった。彼が真面目《まじめ》に口をきいてるかどうかはさらにわからなかった。というのは、彼は言い進むに従って熱してきて、ついには最初の逆説的な意図を見失ってしまうのだった。芸術家たる彼は他人の酔いに酔わされていった。そういう審美的感興の或《あ》る場合に、彼はふとオーレリーの奥の室で、革命歌を一つ即席にこしらえたことがあった。するとその歌はただちに繰り返されて、翌日はもう労働団体のうちに広がってしまった。彼は危い破目に立った。警察から監視された。当局と了解をもってるマヌースは、友人の一人のグザヴィエ・ベルナールから注意された。このベルナールは、警視庁の若い役人で、文学に手を出していて、クリストフの音楽に心酔してると自称していた――(というのは、享楽主義と無政府的精神とは、第三共和政府の番犬どもの間にまで染《し》み込んでいたのである。)
「あのクラフト君は、よからぬ芝居を打とうとしてる。」とベルナールはマヌースに言った。「彼は虚勢を張ってるんだ。われわれは彼のことをどう考うべきかを心得ている。しかし上のほうでは、革命の陰謀団の中から、一人の外国人を――おまけにドイツ人を――引っ捕えるのは、そう嫌《いや》なことでもないからね。それは党派の信用を失わせて嫌疑を起こさせる古めかしい手段なんだ。もし奴《やっこ》さん気をつけなかったら、われわれは余儀なく逮捕しなければならなくなるだろう。困ったことだ。注意してやりたまえ。」
マヌースはクリストフに注意した。オリヴィエはクリストフに慎重な態度を勧めた。がクリストフは彼らの意見を真面目にとらなかった。
「なあに、」と彼は言った、「僕が危険な人物でないことはだれでも知ってる。僕にも少しくらい楽しむ権利はある。僕はあの連中が好きなんだ。彼らは僕と同じように働いてるし、僕と同じように信念をもっている。実を言えば、それは同じ信念ではなく、僕らは同じ党派ではない……。がけっこうだ。そんなら戦ってやろう。僕は戦いが嫌じゃない。どうせよと言うのか? 君のように自分の殻《から》の
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