、聞き知らぬ声は威嚇的になっていった。クリストフは仲裁してやらなければならないと思った。そして扉を聞いた。こちらに背を向けてる多少無格好な若い男の姿が、ちらと見えただけだった。とっさにセシルはクリストフのほうへやって来て、元の室へもどってくれと頼んだ。彼女も彼といっしょにもどって来た。二人は黙って腰をおろした。隣の室では、その客がなおしばらく怒鳴っていたが、やがて扉をがたりと音さして出て行った。するとセシルは溜息《ためいき》をついてクリストフに言った。
「あれは……私の兄です。」
 クリストフは了解した。
「ああ……私にも覚えがあります……。」と彼は言った。「私にもそんな兄弟が一人あるんです……。」
 セシルはやさしい同情を寄せて、彼の手をとった。
「あなたも?」
「ええ。」と彼は言った。「あんなのは家庭の喜びですね。」
 セシルは笑った。そして二人は話を変えた。がまったく、家庭の喜びは少しも彼女の心を喜ばせなかったし、結婚の考えは少しも彼女の心をひかなかった。男というものはあまり価値のあるものではなかった。彼女は独立の生活のほうがずっとよいと考えていた。現に母親も、独立生活の自由を長
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